割れ窓の寓話(われまどのぐうわ、仏: Sophisme de la vitre cassée)は、フレデリック・バスティアによる1850年のエッセイCe qu'on voit et ce qu'on ne voit pasThat Which Is Seen and That Which Is Not Seen:見える物と見えない物)の中で使用された寓話である。フレデリック・バスティアは、この寓話を用いて、破壊あるいは破壊の修繕に使用される出費は社会の純利益にはならないということの理由を説明している。「割れ窓の寓話」(別名としては「割れ窓の誤謬」や「ガラス屋の誤謬」がある)の目的は、機会費用が見えない形あるいは顧みられない形でどのように経済情勢に影響するかを示すことである。この寓話は「意図せざる結果の法則」(law of unintended consequences) の一例である。

寓話の内容

フレデリック・バスティアがCe qu'on voit et ce qu'on ne voit pas(見える物と見えない物)で用いた「割れ窓の寓話」は次の通りである。

様々な解釈

バスティアによる主張

バスティアそしてオーストリア学派の理論家達は、割れ窓の寓話を別の形に応用している。窓を割った子供が実はガラス屋に雇われていて、窓を1枚割るごとに1フラン受け取っていたと仮定してみよう。突如として、この行為は窃盗と見做されるようになるだろう。ガラス屋は、窓を割ることで、自身のサービスの利用を人々に強いている形であるが、しかし、見物人達が目にする事に変化は無い。ガラス屋は、パン屋や仕立て屋などの犠牲の上に、商売上の利益を得るのである。

ガラス屋が子供を雇って窓を割るのと事実上同等の行為が、社会によって是認されていると、バスティアは主張する。

バスティアは生産を論じているのではなく、富の貯蔵量を論じているのである。言い換えれば、バスティアは、単純に、窓を割る事の短期的な効果を見ているのではなく、長期的な効果を見ている。さらに言えば、バスティアは、窓を割る事が一つのグループにどう影響するかという事だけではなく、すべてのグループあるいは社会全体にどう影響するか、という事を考慮に入れている。オーストリア学派の理論家達は、割れ窓の誤謬を引き合いに出し、大衆的思考によく見られる特徴であるとする。その一例としてCash for Clunkers などが挙げられる。 20世紀のアメリカ人の経済学者ヘンリー・ハズリットは、著書「世界一シンプルな経済学」(Economics in One Lesson) の中で、この話題に一章を割いている。

戦争の機会費用

戦争は利得をもたらす、という主張が成り立つようにも見える。なぜなら、歴史的に言って、戦争は、失業率低下を実現させながら、資源の活用を指向して、科学技術の分野などに進歩をもたらすからである。戦争に起因する生産増大と雇用促進は、しばしば、人をして「戦争は経済に有益である」と主張せしめるものである。しかしながら、この主張は、割れ窓の誤謬の一例として挙げることができる。戦争遂行のために消費される資金は、例えば、食糧や服や医療保険などの産業に使えなくなる資金である。経済全体の中で、一つのグループが得る励起力は、その他の複数のグループの犠牲(これは目に見えない)によるものである。

バスティア自身も「見える物と見えない物」の第2章「軍隊の解散」の中で、国民を兵士として雇用することは本質的に経済に有益である、という主張に対して反論を述べている。

ヘンリー・ハズリットは次にように述べている。

関連項目

  • ゼロサム・ゲーム
  • オランダ病
  • コブラ効果
  • 創造的破壊
  • ショック・ドクトリン
  • ジェボンズのパラドックス
  • レントシーキング
  • 乗数効果
  • en:Zero-sum thinking
  • en:Tax choice
  • en:Uneconomic growth

脚注

関連文献

  •  Bastiat, Frédéric (1850) (英語), That Which Is Seen, and That Which Is Not Seen [original French: Ce qu'on voit et ce qu'on ne voit pas], Translated by Patrick James Stirling, ウィキソースより閲覧。 
  • Hazlitt, Henry (1946). Economics in One Lesson. Harper & Brothers. LCCN 46-5937  (PDF)
  • Fetter, Frank A. (1915). Economic Principles. NEW YORK: THE CENTURY CO.. http://oll.libertyfund.org/titles/fetter-economics-vol-1-economic-principles 

参考文献

  • Abrams, Burton A; Parsons, George R (2009). “Is CARS a Clunker?”. The Economists' Voice 6 (8). doi:10.2202/1553-3832.1638. 
  • McGee, Robert W. (2010). “Financial Bailouts and the philosophy of Frédéric Bastiat”. Aestimatio (1): 88–97. SSRN 2435748. http://dialnet.unirioja.es/servlet/articulo?codigo=3807818. 
  • Stringham, Edward P.; Snow, Nicholas A. (2008). “The broken trailer fallacy: Seeing the unseen effects of government policies in post-Katrina New Orleans”. International Journal of Social Economics 35 (7): 480–89. doi:10.1108/03068290810886885. 
  • Carabini, Louis (2007). “Bastiat's 'The Broken Window': A Critique”. Journal of Libertarian Studies 21 (4): 151–55. http://mises.org/journals/jls/21_4/21_4_11.pdf. 
  • Mian, Atif R.; Sufi, Amir (2010). The Effects of Fiscal Stimulus: Evidence from the 2009 'Cash for Clunkers' Program. doi:10.2139/ssrn.1670759. 
  • Caplan, Bryan; Stringham, Edward (2005). “Mises, bastiat, public opinion, and public choice”. Review of Political Economy 17: 79–105. doi:10.1080/0953825042000313825. 
  • Stanfield, James (2010). “The Broken University: What is Seen and What is Not Seen in the Uk Higher Education Sector”. Economic Affairs 30 (3): 53–58. doi:10.1111/j.1468-0270.2010.02022.x. 

外部リンク

  • "Ce qu'on voit et ce qu'on ne voit pas" (original essay)
  • "That Which is Seen and That Which is Not Seen" (English translation)

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